余計なことにお金を使うのは好きではないのでマネーフォワードの会社設立支援サービスを見ながら6万円ちょっとで会社を立ち上げましたが、ロゴだけはそれと同じくらいの費用をかけました。

創業社長って会社の名前とかロゴとかにすごい熱量の感情を込める人が多いと思うんですけど、弊社の場合はなるべく目立たないようにひっそり生きていくという目的で創業した関係で、あんまりそういうことに手間暇をかけるつもりはありませんでした。そこで、クラウドソーシングのサービスを使ってロゴを発注することにしました。「Independent Tokyo based software company needs a logo design」と銘打ってDesignCrowd上でコンペを始めたのですが、デザインの要求仕様には「私たちはデザインにはうるさい会社ですが、ゴドーを待っている猫の姿なら高い評価をします」と書いておきました。なお、デザインにうるさい云々はただのハッタリです。

サミュエル・ベケットという作家には大変思い入れがあり、恥ばかり多いわが人生を振り返ると「Worstward Ho(邦訳「いざ最悪の方へ」)」の有名な一節が大変強く心に響きます。

All of old. Nothing else ever. Ever tried. Ever failed. No matter. Try again. Fail again. Fail better.

確かに、これまでの経験からすれば、この先もどっちみち失敗はするのですが、どうせそうなんだし、だからといってやりたいこともないわけじゃないからいちいち気にもしていられないし、かといって完璧になる日もこない。だったら上手に失敗するしかないですよね。

結果、120以上の応募があったのですが、4つをのぞいて全ての応募作品がゴドーを完全に無視した内容でした。デザイナーの間ではサミュエル・ベケットはあまり人気がないのかもしれません。また、残りの半数がゴドーをインドネシアの土着の神として扱っていたため、事実上2つの作品の一騎打ちになりました。

黒猫版

採用されたのはまずはこちら。会社の名前と「ゴドーを待ちながら」に登場する特徴的な帽子、それを追いかける猫が描かれています。なかなか感じもいいしどこに出しても問題にはならない出来栄えです。主にウェブサイトや名刺に使うのはこちらのロゴにしました。

これでもう十分といえば十分なのですが、この後に送られてきた作品に「これはちょっと大胆すぎるかもしれないのですが…」と作者自身がコメントしていたのを見た時、これを捨ててしまうのは到底無理だと判断してもう一つのロゴとして採用してしまいました。確かにとても大胆で、ちょっと誤解を生みかねない内容になっていますが、誰も会社のロゴは一つに限ると決めたわけではないし、捨てがたい何かを見出してしまったからです。

ロープと猫と帽子

樹木とロープ、帽子は「ゴドーを待ちながら」の重要なモチーフで、この演劇の記号的表現としてとてもわかりやすいものとなっています。樹木は舞台の数少ない背景であると同時に、誰なのかもわからないゴドーなる人物をただひたすら待っている他にはこれといってすることがないウラジミールとエストラゴンが、にっちもさっちもいかない現状にいっそこれで首でも吊ろうかと相談するも、そのあまりの頼りなさに躊躇するほど痩せた木で、死というとりあえずの解決さえも二人から奪い去り、二人のどうしようもない状況をさらに際立たせる装置でもあります。ロープはその場を通りがかってゴドーと間違えられたポッツォなる人物が犬のように引き連れているラッキーという名の男の首にかけてあった引綱です。そんなわけで、このロゴに描かれているのは、誰かが首を吊ったロープを猫が見上げているのではなく(ロープの一端は結ばれてさえもいない)、二幕ものの芝居である「ゴドーを待ちながら」の中でひたすらうだうだとしていただけのウラジミールやエストラゴン、ポッツォとラッキーも今や去り、舞台装置の小道具の他には猫がいるだけの、失われた「ゴドーを待ちながら」の第三幕なのです。猫はいちいちおのれの生に絶望したりしないので、首を吊るような真似はしないのはいうまでもありません。


ここから先はただの埋め草なので読まなくても結構です。ロゴの製作費と会社の設立費用が大体同じくらいだったので、せっかくだからここに概要をメモしておきます。


みなさんは会社の設立ってどれくらいの手間と費用がかかるかご存知ですか?いかにざっとリストアップしてみました。

まずはどの会社にも共通して必要なもの。

  1. 資本金
  2. 登記書類の印紙代
  3. 定款の作成費用
  4. 印鑑
  5. 法人口座とクレジットカード(デビットカード)
  6. 会社の住所
  7. 電話番号
  8. いろいろな書類の印刷費用

弊社は合同会社なのですが、昔の言い方だと有限会社と同じようなものになります。資本金は制度上では1円からでも設立できます。それに法務局に提出する書類の印紙代が6万円必要で、電子定款なら印紙代が不要になり、頼めば行政書士さんが5,000円くらいで作ってくれます。その他登記に必要な書類はオンラインで揃えることができます

登記の手続きは結構ややこしいです。最低限必要な書類を揃えたら、まず最初に資本金を自分で自分の口座に振り込み、それを証明するためにオンラインバンキングのページなどを印刷します。今時は現金を扱えないATMもあるので窓口が開いている時間に銀行に行ったり対応するATMを探したりするのに時間がかかりました。あとは、法人として契約書類を作成するための印鑑を用意します。登記の際に印鑑登録も済ませておくと楽です。もちろんみなさんには必要十分な良心があるから象牙なんか選びませんよね?ちなみに定款と会社住所の変更はくそみたいに手間暇がかかるので、自宅を公の場に晒すのが嫌だなと思ったり後から事業内容を変更したくなる時に備えて十分に準備しておいた方がいいですよ。ここまで準備できたら、近くの法務局を調べて窓口にて手続きします。印紙類はそこで購入できます。

そんなわけで、弊社の場合は印紙代と定款、印鑑の費用を合わせて66,666円で会社を設立させることができました。資本金はこのうちの666円です。電話番号はTwilioで番号を取得して携帯電話に転送するように設定しました。法務局で登記を済ませてもその場では登録は完了しませんが、期日を教えてもらえるので、完了したら後日また法務局を再訪して印鑑証明書や履歴事項全部証明書を発行します。一部400円弱ほどかかります。それを手にまずはお金のやり取りをするのに必要な法人用の銀行口座を用意して、各種支払いのためのクレジットカードも取得しましょう。

次に、法的に必要というわけではないけれども実務上必要だったもの。

  1. ロゴ
  2. 名刺
  3. 会社のドメインとウェブサイト
  4. Microsoft 365アカウント
  5. 電子メールのサービス
  6. ストレージのサービス

11から下はみなさんそれぞれ好きに選択すればいいと思います。客先とのやり取りにどうしてもMS Officeは必要だったので12を入れましたが、メールやファイルサーバをご自身で運用されるケースもあるかもしれません。しかし本業でもない限りそれらの管理が重荷になると嫌だったので、結局G Suiteを契約しました。

もしソフトウェア開発会社を立ち上げてiOS向けの製品を開発するなら、Appleの開発者アカウントを用意する際にDUNSナンバーを取得して、それから自社ウェブサイトも準備しなければいけません。

これであなたも四年間みっちりがむしゃらに働いても何も得られないかもしれない人生を手に入れることができます。実際に手続きされる際にはこれらはあくまで参考程度に、必ず専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。受けなくてもできますが、お前のせいで失敗したと抗議されても同情もできないので、一応書いておきます。グッドラック。