初めての起業で踏み抜いた地雷達2020」という大変興味深いブログエントリを拝見しました。なかなか苦労なさったとありますが、このご時世ですから同業としましても是非とも頑張っていただきたいものです。弊社も2019年の8月末に登記して、実質活動を始めたのは2020年からなので、事情はほとんど同じかと思います。

何を隠そう、これまで会社経営などせいぜい横から口を挟む程度で本格的にはしたことはなかったので、大変参考になりました。そこで、弊社もこのエントリのチェックポイントを振り返りながら第一期の経営を総括してみます。

以下、太字の見出しは元ブログエントリから拝借しました。

1.起業前に継続仕事を確保しなかった(出来てなかった)

弊社の場合も、前職からお客様を引き継ぐようなことはしていません。また確保することもありませんでした。なんだか仁義にもとる気がしますからね。ただ、幸いにも2020年内は前職の業務の一部を請け負うという形で細々とお付き合いすることはありましたので、その点はありがたかったです。

もちろんそれだけでは家のローンで終わってしまう程度なので、新規の案件が必要だったわけですが、こちらも運よく途切れることはなかったので起業前の心配は杞憂に終わってしまいました。

2.起業前からキャッシュを確保しなかった

実は弊社は資本金が666円の合同会社です。確保したキャッシュも、登記書類の印紙代などを除けば実はそれしかありません。自社サービスを急ぎ立ち上げる予定もなかったので創業融資のような資金も入れていませんでした。AppleのDeveloper登録のために必要だったためAWSのアカウントを新規作成したので無料枠を使ってS3とCloudFrontで会社のウェブサイトを用意し、それでおしまいです。オフィスは自宅なので本当に他に必要な資金がなく、これで済んでしまいました。

3.税理、経理、労務を自分でやろうとした

個人事業主時代に懲りていたので、これは流石に当初から諦めていました。が、仕事が忙しく怠けていたため決算の間近になって慌てることになりました。

起業の際に決済用に法人カードを用意したのですが、設立の手続きをマネーフォワードの会社設立支援サービスで済ませたので、その関係でマネーフォワードの法人カードを選んだため、その流れで住信SBI銀行に口座を用意し、マネーフォワードが使える税理士さんを近所で検索したところ運よく若く話の早い方が見つかったのでそちらに全部お願いして事なきを得ました。ラッキーだったのは、書類の作成や管理も面倒だったので請求書などは全部Misocaのサービスを使っていたら、これもマネーフォワードと連携させることができたので、もうこちらでやることはほとんどありませんでした。便利な世の中になりましたね。ありがたいものです。

のちに、住信SBIではせっかく加入した厚生年金の口座引き落としが出来ないことが判明し、法人口座は別途用意する羽目になりましたが。

4.一人で起業した

ポール・グレアムも一人で起業するやつには見込みがないと書いていますね。スティーブにはもう一人のスティーブ、ビルにもなぜかスティーブ、なんでみんなスティーブと起業するんだろう。でも、あんまり友だちとかいないしスティーブって知り合いもいないから一人でしか起業できませんでした。というのは冗談ですが、複数人で起業するには自分以外の人の給料も心配しなければいけないというのが気にかかってしまいました。最悪、自分だけならなんとかなるとは思うのですが、一緒にやってくれる人も自分の食い扶持をさっと稼げるとは限りません。そうなると資金調達や事業計画といったいわゆる普通の社長業が優先されてしまうので、余裕ができるまでは一人でやっていくことにしました。結果的には目標が下がった分だけゆとりができたと思います。ただ、雇用を作り出してこその会社ではあるので、そこはおいおい改めていかないといけません。

単純な話、一人で2,000万円とか3,000万円を稼ぎ出すことは、結構大変ではありますが健康であれば案外と不可能というわけではないと思います。一方で、1億円とかその辺りになると個人事業では何かのサービスが当たるなど相当特殊なケースやせめて積み上げ式のビジネスでしか無理なのではないでしょうか。しかし、複数人で仕事をすることで全員で合計1億円を売り上げるというのは、逆にそれほど高いハードルでもないような気がします(いや十分高いんですけど)。従業員一人あたりの売り上げが3,000万円で10人で3億円みたいな規模なら心地よく仕事ができるのかなと肌感覚として思っているので、出来る事なら近いうちに雇用を生み出していけたらというのが直近の目標です。

5.起業時優位時間を知らなかった

この言葉自体を知らなかったのですが、起業時に使える無料サービスのことなんですね。上にAWSのことを書きましたが、他にはPRなどは使うつもりがなく何も知りませんでした。というのも、アピールする自社サービスも用意していませんし、会社を宣伝しても新規の顧客がいい顧客とは限らないのでなるべく知り合いや付き合いのある会社さんと継続してお仕事していきたいと思っていたので、PR系の営業も全てお断りしました。

6.ピッチイベントやアクセラレータプログラムを知らなかった

基本的にハッカソンとかピッチイベントとかのイベントがあまり好きではなくて(というのもいつも自分の方が上だと思っているから)、以前ちょっと出た時はコンタクトセンターを作り妊娠葛藤相談サービスに寄贈する目的で参加し、賞品と賞金を全部寄付してしばらくそれで運用してもらうという目的だったのですが、一回目はチャラい審査員の目が曇っていたため優勝を逃しMacBookと数万円程度しか寄贈できず、二回目くらいで優勝してようやくそれなりの貢献ができましたが、一回目のことが本当にムカついたので二度と出るものかと誓いました。

そんな恨言はさておき、この手のイベントに参加するということは、自社サービスの営業先を確保したり、資金や人材にアピールする必要がある会社ということになりますよね。弊社の場合はそういう事業スタイルではなかったので特に必要はありませんでした。

以前Fintech企業に在籍していた頃にはいくつかこの手のイベントに顔を出したのですが、一番違和感を覚えたのは、審査したり講演したりしている皆さんは、たいていコンサル上がりのVCや大企業に所属したままのお偉いさんで、起業経験など一切なかったりするんですよね。もちろんその仕事を続ける中で得た知見もいっぱいあるんだと思いますが、起業して右往左往する中で経験するのはそんな程度の甘いもんじゃねえぞ、くらいに思っていればいいんじゃないかなという気がしました。

7.技術者目線のままだった

だんだん元記事の方も疲れてきたようで、この辺りから内容が端折られているため読んでも事情がよくわからないのですが、確かにクライアント様との折衝だけでなく色々なところで技術者として以外の目線は必要ですね。

長所の反対は短所なので、例えば技術者は何かを作ることができるという誰もが羨む長所があるけれど、逆に何かといえばすぐに作ってしまおうとする悪癖があります。本当に作るべき時点がやってくるまで作らないというのも大事なことだというのが、この数年で得た学びです。

8.がむしゃらしてなかった

「我武者羅」ってこんな字を書くんですね。出鱈目もかなりデタラメな感じがしますし、我武者羅もかなりガムシャラな感じがするので漢字って面白いと思います。

一人の会社で社長になると、基本的に社長は定額働かせ放題なので、なかなか仕事のやめ時が見つかりません。休みの日にも、あ、これを提案したらお金が入るぞ、とか、あ、ここを直せばサーバの費用が数万円浮くぞとか、ついつい思いついてしまったりします。しかし、残念ながら人間は疲れたり寝不足だったりすると認知能力が低下するので、休みはちゃんととった方がいいと思います。個人的な話ですが、どうも一気に長く寝るよりも短い睡眠をこまめにとる方がいい気がするので、最近は昼寝をするよう心かげています。その分、周囲が静かになる夜に仕事できるので、効率もいいなと感じています。

9.安易に期待しすぎた

まあ、確かに昔から「下手な鉄砲シャブ打ちゃ当たる」とか「押してダメなら押しまくれ」とかいいますもんね。だけど「待てば海路の日和あり」とか「果報は寝て待て」ともいいますから、格言とか古事成語なんていい加減なものですよ。

でも、フリーランスになった駆け出しの頃から、いやバイト時代からもそうなんですけど、本当に人はこと仕事に関してはいつも悪意なく期待させては失望させてくれるものなのです。初めて大人ってやつに失望したのは、年齢を誤魔化して予備校で講師をしていた頃(大学中退の21歳なのに大卒25歳ということにして働いていた)で、年度の終わりに来年の契約を口約束されていたので何も準備せず来シーズンまでのほほんと待っていたら全部反故にされて路頭に迷うという経験をしました。割と学生さんも集まっていたので人気に寄りかかってすっかり油断してしまいました。

プログラマになってからも、見積もりを出して受注して仕事を開始したものの発注書を受け取っていなかったばかりにいざ請求という段階で中間業者にとぼけられて半額どころじゃない金額にされたりもしました。業界ゴロみたいな連中はあちこちにいるのです。油断も隙もあったもんじゃありません。まあこれはただの悪人というかもう犯罪者だろという珍しい例ですが、もっと頻繁に起きてダメージも大きいのが「案件受注の期待をもたせてスケジュールを抑えさせておきながらのキャンセル」攻撃です。会社員というのは基本的に上司が全てです。案件が発生しそうになり、手近なフリーランスに連絡して日程を抑え、ついでに一緒に飲みにいったりなんかして、いやあ本当に次もお願いしますよ!と挨拶しても、翌週に上司が案件のキャンセルを告げたら、一介の会社員にはどうしようもありません。謝ってくれるならまだいい方で、いきなり返信がなくなってヤキモキしていたら風の噂でキャンセルを知るなんてこともあります。早くバラしてくれる方がありがたいのに、と残念な気持ちになります。

なんて他人ばかり責めていますが、自分でもこれまでいくらでもやってきたことだろという声が聞こえてくる気がしてゾッとしました。そうなんですよね、人間って自分がやったことは都合よく忘れて他人への恨みごとだけ覚えているものです。ああ、反省しよう。そんなこと二度とやらないように生きていこう。上司もいないし。

11.苦手なことを勉強にとしてしようとして死んだ

大丈夫ですか?

人って殺そうとしてもなかなか死なない割に、簡単に死んでしまうんですよね。この歳になると、もっと生きたかったのに生きられなかった人たちを何人か身近に知るようになります。悲しみというのは無力感と同じものなんだそうですが、確かに残された人は何もできないので、悲しくもなりますよね。

以前、まだ働き盛りの母を亡くした時、お坊さんがお経を読みに葬儀に来たのですが、なぜかそこで人生相談をされました。彼は自分の仕事の意義に悩んでいるようで、こんなことに意味があるのかなどと、お金を払っている遺族にそんなこと言っちゃダメだよと思わないでもないような心中を控室で吐露していました。仕方がないので、しばらく考えて、結局のところ残された人たちは何もできないという無力感だけを手元に抱えた状態で取り残されてしまうんだから、この葬儀というセレモニーは、何もできないながらもせめて何かしたいという気持ちの表現なんですよ。だからこれは実際的な価値のある行為でもなんでもなくて、無力感に苛まれる遺族にせめて何かしてあげたんだという感覚を与えてあげるためのものなんです。だから、お経なんてただの音だし意味なんかなければ死んだ人の死後の世界での居心地を左右したりなんか絶対しないけど、価値がないわけじゃないと思いますよと答えて、しっかり金を取られました。

なんの話だっけ。いや、大丈夫。始まったばかりの今年だって大変だけど、一緒に頑張ろう。うん。